uneの楽器・調律について

uneで制作している楽器はすべて、調律から制作しています。

音というのは、言葉で何かを他人に伝えようとするのとはまた違った形で、いうならばより速く、たくさんの情報を驚くほど瞬時に、感覚へダイレクトに届ける力を持っています。

私たちの五感それぞれには特性がありますが、聴覚による、”音の比率・尺度を瞬時に聞き分ける能力”は、視覚で物の長さを測る以上に鋭いといわれます。
実際にオクターブの倍音程や5度、4度といった位置関係をはっきり感知し、その結果、比率の動きはメロディや楽曲となって、誰しもの感情を揺さぶったり記憶に留まったりしています。

この物理的な振動である音の、”比率”や”数と音”の関係を最初に発見したのは、古代ギリシャの哲学者ピタゴラスと言われています。伝承によればピタゴラスは鍛冶屋が金属を打つ音が調和して聞こえる現象に着目し、そこから板にはった弦を用いて、弦の長さの2:1がオクターブ、3:2が完全五度、4:3が完全四度といった、いわゆる“ピタゴラス音階”の元になる整数比を見いだしました。

ここで使われた考え方は、のちに純正調=ジャスト・イントネーションと呼ばれる音律体系にもつながり、整数比によって発見された自然的な共鳴関係、音律の調和の美しさを確立する基礎となっています。

純正調においては、音と音の周波数比が整数比となるため、複数の音が同時に鳴る際でも波のうねりがきれいに重なることで、にごりのない響きと、自然倍音の本来の共鳴による、驚くべき美しいサステインを聞くことができます。

米の現代音楽家テリー・ライリーは、純正調で演奏したときの感覚を「カメラのフォーカスがぴたりと合ったような状態」「すべてがクリアに焦点を結ぶ(everything comes into a clear focus)」と表現しており、音の輪郭が鮮明になり、意識が音の深層に引き込まれるようだと話しています。

また1音の響きにじっと耳を傾けることにより新たな音世界を見出した、偉大な米の現代音楽家ラモンテ・ヤングもジャストイントネーションの効果が明らかな作品を多数残していますが、「純正律は、私が音と感情の関係を理解する鍵 the key to my understanding of the relationship between sound and feelings」と述べ、さらには自然と宇宙の構造を音で明らかにする方法と捉えています。

1946年に純正調と出会い、膨大な研究を残したルー・ハリソンが中心となって始まった”アメリカン・ガムラン”というムーブメント。

私たちが2022年〜2024年にかけてテーマパークのために制作したガムラン形の楽器遊具”サークルガムラン”もこの研究をもとに制作しています。

まだアジアと西洋の距離が遠かった時代、エキゾチズムへの憧れと、行き詰まりが見え始めた消費型アメリカ文明のその先を見出そうとした試みの一つでもあり、

音律的な面では、倍音の自然な音の響きを”妥協”することで、14世紀頃のバッハの時代から、ピアノという形としてよりシステマチックに近代化された”西洋12音平均律”からの出口として、その均質的な調性システムを否定するような無調的な方向への破壊や、身の回りの生活音や自然音なども取り入れるなど、音色・ハーモニーを捨て、音のテクスチャの追求に向かった現代音楽の発展、

その歴史を今となって俯瞰すると、ピアノによって固定されたある意味不自然な12音平均律の響きからの直感的な脱却とも取れるのですが、
そのもう一つのより自然なベクトルの表れとして、1970年台にアメリカで起こったミニマル音楽や純正調を含む様々な音律の探求、アメリカンガムランもその一つとして生まれたムーブメントでした。

廃材のアルミ板やパイプ、タイヤのゴムチューブなど身の回りの材料を用いて、独自のフォルムと音律のガムラン制作・演奏を行なったそんなムーブメントに関わった一人、ダニエル・シュミットは
「伝統的な調律や楽器から離れ、独自に作った楽器に純正調を施すことで、まるで“音色が自然そのものの音声”に近づいていくように感じられる」
という言葉を残しています。

uneではこれらの様な音律への眼差しを中心に据え、
サステインに印象的な効果を生み出す倍音スケールや、
インドネシアのガムランやインドのラーガなどの世界各国で使われている音律などを使っています。

普段私たちがいつも耳にしている12音平均律は使わず、それ以外の様々なスケールの冒険をすることを楽器制作の一つの柱として採用しています。

そもそも音は振動=波であり、物理にとても忠実で、波の数(周波数)が2倍になれば音高は1オクターブ上がります。

言葉や記憶を駆使して他人に意図を伝えるコミュニケーションに対して、聴覚によるコミュニケーションは「音波の比率」という別なる次元を通じて行われ、振動は私たちの心身や根源に直接的に働きかけるものです。

uneでは、この様な考え方で音の波の本来の響きを生かすために純正調を用い、様々な要素や数式を用いて、その調律設計から楽器制作を始めるようにしています。

実際の楽器調律も、大量生産ではない利点を活かし、一点一点、響きを最大限に引き出すために、まず工場から届いた材料を楽器として使えるよう丁寧に磨き上げ、その上で、温度管理やコンピュータ制御といった厳密な基準を設けながら音程を確かめ、微調整を重ねるなど、細部までこだわって制作しています。
聴覚を通じて瞬時に伝わる響きの中に根源的な感覚の喜びやひらめきを見い出せるような楽器制作が出来たらと考えています。